不審者侵入を想定した避難訓練は、今ではいずれの学校においても当たり前のように取り組まれる訓練の一つとなった。危機管理マニュアルの作成と不断の見直しによる事件、事故の未然防止、発生時の万全なる対応は学校の安心・安全確保のための必須事項である。
しかし、危機事態がいかに多様化しようとも、危機管理のかなめは「危うい兆し」をいち早くつかみ予防的措置を講ずることと、事が起きたときには最悪の事態を想定して悲観的に、そして大胆に対応することの2点だと考えている。
1 「危うい兆し」をつかむ予防的危機管理
教頭時代、校舎点検の最終巡視で、異常をつかむために風の流れや臭いを手掛かりにすることがよくあった。
普段にない風の流れを頬で感じ、カーテンをめくってみると窓が開いていた。「危うい」と感じたその時が予防的対応のタイミングである。
当校は山間地の学校ということで、野生動物、特に熊と猿への対応という他校にはない取組が求められる。すべての子供に熊鈴を持たせ、「熊の出没情報」は校区外であっても全校連絡網による情報の周知、共有を常としている。
また、対人関係に起因する不登校やいじめの対応でも「危うい兆し」の把握が欠かせない。当校は少人数の特徴を生かし、すべての子供に個別の指導計画を作成し、学習、対人関係の状況を把握し、全職員ですべての子供を見る体制を整えている。そして、今見られる現象だけでなく、予兆の把握を重視した記録の累積を大切にしている。
2 大胆で悲観的な対応
10数年前に勤務した学校で、子供が2階教室の窓から転落するという事故を体験した。
この事故から得た教訓は、「事が起きたときには、最悪の事態を想定し、大げさすぎるほど悲観的に対応」することであった。
この教訓を基に、例えば校内事故の対応マニュアルでは、首から上のけがと火傷については、症状のいかんにかかわらず医療機関を受診する。必要に応じてはちゅうちょなく救急車の出動を要請するよう指示している。「大騒ぎをしたけれど何もなかった」ということが、校内事故対応の基本的な構えとしたい。
危機管理マニュアルを不断に見直し、危機事態を想定しての訓練を積み重ねることは重要である。しかし、危機管理の要諦は、校長をリーダーとし、全職員が危機の予兆を鋭く感知し、事には大胆かつ悲観的にかかわろうとする「学校センサー」ともいうべき「構え」であるととらえたい。 |