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初等教育巻頭言

新潟県小学校長会 会長伊藤充 スーツ
新潟県小学校長会
会長 伊藤充

 新潟市立新潟小学校には、「教員は、平時には必ずスーツを着用すべし」という教えがある。
体育の時間にトレーニングウェアを着ても、終われば必ずスーツに着替える。新潟小学校が、ここまでスーツにこだわり続ける理由は何だろう。

 大正8年、渡辺兼二新潟市長の要請により、豊川善嘩校長が新潟小学校に着任した。豊川は、大正自由教育を提唱する玉川学園の小原国芳と教育研究上の同志であった。豊川は新潟小学校へ着任して以来、「子どもの力を最高に発揮せしむ教育」を推進すべく、大改革を行った。小原も時々訪れ、教職員を熱く指導した。教育計画や指導方法、教員研修、学校組織などに至るまで多くの改革を行ったが、その一つにスーツ着用があった。スーツはフロックコートの裾を落とした、寛いだ時に着るイギリスのラウンジコートが原型であり、大正時代の自由な雰囲気にあふれた服である。当時の新潟では和服が一般的であったが、豊川校長は大正自由教育の象徴として、新潟小学校の男性教員全員にスーツを着用させたのである。
 しかし、豊川校長の大改革があまりに性急であったため、学校の内外から批判が起き、新潟市教育課との対立にまで発展した。結局、豊川校長は追われるように新潟小学校を去らねばならなかった。
 しかしながら、「子どもの力を最高に発揮せしむ教育」を意気に感じた新潟小学校の教員は、豊川校長が去ってもスーツを脱がなかった。そして、スーツを着続けた。そのうちに、他の学校の教員もそれにならい、県内の小学校でスーツ・スタンダードが生まれたという。

 県内526の小学校にも、それぞれにこだわり続けるものがあるはずである。こだわり続けるものが校風を生み、学校の在り方や方向性を規定する。それを大切にしたいと思う。そのためにも、私たち校長は学校の過去と今とを見据えなければならない。学校の先人の言葉に、謙虚に耳を傾けなければならない。さらに一歩進んで、現在校長である私たち自身が、未来の教員が「こだわり続けるもの」としての「何事か」を、創造しなければならないとも思うのである。

 スーツについて、エリザベス女王はじめ英国王室の服をデザインし、伯爵の称号を与えられたハーディ・エイミスは、次のように言っている。「スーツとはあくまでも社会的なファッションであり、社会的なルールに則った正しい服装こそが美しい服なのだ」と。私がこれまで見た、最も美しいスーツ姿は今上天皇陛下のネービーブルーのダブルスーツである。服そのものは決して目立たないのに、日本の天皇の在り方を明確に示す1着であった。
 私たち校長もまた、スーツをまとう。その姿は、校長としての社会的なファッションでなければならない。学校のトップとしての校長は、その服装も、さらに振る舞いも、保護者や地域の方々、教職員から、何気なくそして厳しく見られているのだから。

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