今から30年ほど前、県内でも5本の指に数えられる印刷所の工場の壁に、額が掲げられていた。
そこには、次の言葉が書いてあった。
知恵ある者は知恵を出せ知恵なき者は金を出せ金なき者は汗を出せ |
あの時、「出させるだけでいいのか?」と違和感をもったことを覚えている。
校長力とは、知恵と金と汗を出させ結びつけて、学校の教育課題を解決していく力のことである。校長は知恵と汗、すなわち人を結び付けるのは得意であるが、それを金と結び付けるのは苦手である。たとえば、金も人も教育委員会からあてがわれる。確かに校長は、学力向上や体力向上などの教育課題を、教職員の知恵と汗、つまり人を結びつけて解決している。そして、結果的に教職員を生かし、その力を何倍にも高めている。しかるに、金については、配当されたものを昨年度に準じて概算し、各分掌の希望を聴いた上で修正して予算化する程度のものが多い。たとえば、「体力の向上」が学校の教育課題であるならば、そのために戦略的な予算化が必要なのに、十分にはなされていないのが実情ではないのか。そうであれば、結果として校長は、知恵も金も汗も十分に生かしきっていないことになる。
与えられた大切な教職員の知恵と汗、そして学校配当予算を結び付けて教育課題を解決する力が校長力の基礎・基本である。
しかし、これからの時代は、それでもなお不十分である。与えられたものだけではなく、白ら外に人と金を積極的に求め、外の知恵と汗と金をも結びつけなければならない。たとえば、保護者や地域の方々から知恵をもらい、社会の変化に対応できるように学校を変えているか。さらに、学校ボランティアに参加していただき、その汗を生かして教育課題解決に結びつけているか。あるいは、市町村教育委員会に校長会として必要な予算のために働き掛けたり、企業や教育財団等の補助金を獲得しようとチャレンジしたりして、金を教育課題解決に結びつけているか。
学校の中だけでなく、学校の外にも豊富に存在する知恵と金と汗を結び付けて教育課題を解決して、初めて校長力を高めることができるのである。
30年たった今、冒頭に述べた印刷所は衰退し、その名前さえも聞かない。
なぜ、そうなったのか。私の勝手な推測は2つである。1つめは、知恵と金と汗を出させはしたが、経営者として、それを結びつけて生かすことを怠ったのではないのか。2つめは、会社内部の知恵と金と汗を出させることしか経営者が想定しておらず、外に求める視点を欠いていたため、結果として社会の変化に対応できなかったのではないのか。
内に外にさまざまなものを結び付けて生かす力が、校長に求められている。 |